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勘違いバリュー投資家が真のトレーダーになるまでの物語

ドブ川ウシガエル戦記 後編  To be, or not to be

※グロ画像はありませんが、ウシガエルの画像がありますので カエルが苦手な方は注意してください。

 

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アナゴカゴ の上に乗るナメくさったウシガエル

ああ。時間を稼ぐのはいいがーー

別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?

               エミヤ(Fate stay night)

6月下旬には、ドブ川ウシガエル戦争は順調に成果をあげていた。

初めてウシガエルを処分た6月1日から、10日に1匹程度のペースでアナゴカゴにウシガエルが入るようになった。

毎日朝と晩にアナゴカゴ をチェックすることが日課となり、ウシガエルがかかっていることがわかると妻に声をかけてウシガエル処分グッズを家から運び、川のそばでウシガエルを処分した。

触るのに抵抗があって、ちょっと遠くから見ることしかできなかった妻も、私がウシガエルを処分するのを近くで見て、スマホから鎮魂歌を流すのだ。

しかし、家の周りのウシガエルの数は思っていたよりも多かったらしく、1匹ウシガエルを駆除してもその縄張りには新しいウシガエルがどこからかやってきて私の安眠を脅かすのだ。

加えて、アナゴカゴ に入らない。警戒心が強い。よく考えてみれば、アナゴカゴ に入らないと言う最低限の警戒心を持っていたからこそ、いまだに私に殺されずにいるウシガエルばかりなのだ。

そういうワケで、ウシガエル駆除のペースは遅々として進まない。ウシガエルの繁殖期は9月の終わりころまでとされている。「9月末までにウシガエルを殲滅して安眠を手に入れる」私の目標のためには、まだまだ何匹もウシガエルを駆除しなくてはならない。

もっとアグレッシブにウシガエルを駆除する方法が求められているのだ!

 

ルアーフィッシング編

機会はどの場所にもある。

釣針を垂れて常に用意せよ。

釣れまいと思うところに常に魚あり。

    オウディウス(古代ローマの詩人)

ウシガエル釣りを始めることとした。「ウシガエル 駆除」とググるとアナゴカゴ 以上に出てくるのがこのウシガエル釣りなのである。

 

・ライギョ釣りの外道でウシガエルが釣れる

・ウシガエルはルアーで簡単に釣れる

などなど、ちょっとググるとウシガエルの釣り方がたくさん出てくるのだ。

 

実は、同じようにウシガエルに悩まされた昨年、ウシガエル釣りを試している。

釣具店でブラックバス入門セット(竿、リール、ルアー×2)を購入し、適当に川にルアーを投げ込んでみたのだ。

しかしながら、当時はウシガエルの生態もそれに対応するすべも知らなかったため、ただただいたずらに時間を無駄にして終わっていたのだ。

 

今年の私は一味違う。

ウシガエルのことを誰よりもよく知り、それと戦うすべを身につけているのだ。

 

ウシガエル釣りは次の手順で行う。 

(1)索敵

ウシガエルが潜むポイントを探す。ウシガエルの目にライトを当てると赤く光るため、遠くから強い光を当てて場所を特定する。大抵はいつも同じ草陰に潜んでいることが多い。

(2)接近

ウシガエルは非常に警戒心が強いため、大きな物音を立てたり、彼らの視界に入るとすぐにウシガエルが逃げてしまう。ウシガエルは川岸から対岸に向かって視界を取ることがほとんどのため、自身がいる川岸はウシガエルから死角となる。ウシガエルのいる川岸から気配を消して物音を立てずに接近するのが良い。

(3)釣り

ウシガエルの目の前にルアーを垂らして食いつかせる。目の前で動くものはなんでも食いつく性質があるので、ルアーでなくてもよい。極論だが、針に消しゴムをくっつけたものでも良い。ただし、あまり早い速度で目の前にルアーを落とすと逃げることがあるため、少し離れたところにルアーを着水させ、コントロールして目の前で上下に動かすのが良い。少し食いついても針がかからない可能性があるので、しっかりと食いつかせるまで泳がせる。針が肉に食い込むと、ウシガエルは痛みで声を上げながらもがくので、そこで一気に竿を引き上げる。リールがあれば楽だが、普通の竹竿ではウシガエルが重くて持ち上がらないことがある。その場合は網を使うか、糸を手繰り寄せて引き上げることになる。引き上げたらすぐに足を押さえつけて逃さないこと。

(4)片付け

通常通り。頭をアスファルトに打ち付けて気絶させたのち、アイスピックで脊髄を破壊する。ウシガエルの足を握りながらやると絶命するタイミングがわかるため、絶命するまでしっかりと頭と脊髄を潰すことが大切。

 

必要な道具は、竿、ルアー、ヘッドライトである。広い川で、ウシガエルのポイントが遠ければルアーがあった方が良いが、狭い川であれば100円ショップで売っているような竹竿の方が小回りがきいて便利である。

 


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私は100円ショップで新たに購入した竹竿にルアーをくくりつけ、川へ向かった。

今年の夏は梅雨が始まるのが遅かったようで、空気にそれほどの湿り気は感じられなかった。19時になってもいまだに日が完全に沈んでいないことに気がつき、 夏の本格的な訪れを感じた。

装着したヘッドライトの強度を「強」にして目を凝らす。

エビが水面をパチパチと跳ねる音が響き、水面に波紋を広げている。

見つけた…

いつもの縄張りでじっと動かない赤い目を見つけた。

ウシガエルだ。

足音を立てないようにそっと近寄る。

気をつけなければいけないのは川岸に生えている雑草だ。

これを踏んで音を立ててしまうとこれまでの苦労が水の泡になってしまう。

背後のポジションを確保した。

ウシガエルはまだ私に気がつかない。

そっと手元のルアーを目の前に垂らす。

ーーー着水

水面に上下するルアーはまるで本物の魚のように跳ねた。

黒い影が飛びパッと食いつく。

瞬間、暗闇を貫く悲鳴。

ガガグエエッェ!!!

交尾のためにがなりたてる嬌声が苦しみの声にと変わる。

「来いよオラァッ!」

軋む竿を引っ張り上げる。

 

ーーー突如消失する手の先の重量感。

適当にたまむすびしていたルアーがウシガエルの重みに耐えきれずにはずれてしまったのだ。

 ああ、無念。恥ずかしさと後悔とで私の胸ははちきれそうだった。

その日、私は武器を失い、ウシガエルの勝利の雄叫びが川に響き渡った。

結局、寝るときには耳栓が必要な状況は変わらなかった。

6月のある晩のことであった。

 

 

 6月26日

私は再び竿とアイスピックを手に川岸に立っていた。

4匹駆除されているにも関わらず、彼らは他の場所から私の家の裏に集まりつつあり、執拗な騒音攻撃を加えていた。

 妻によると、昼間からこのウシガエルの攻撃は続いているとのことであった。

 

通常の手順通り、索敵を行う。

比較的近いところにウシガエルの赤い目を確認し、そこを目指してしっかりと忍び寄る。サーヴァントアサシンだ。

暗闇ではウシガエルの目も効かない。そのため、夜は意外と近くまで近寄れるのだ。

そっと目の前にルアーを垂し、動かす。それは可憐に舞台を舞うバレリーナのようだった。

ーーーだがそれは擬態。

ウシガエルが決して手を出してはいけないまやかしの罠。

魚に見えるそれはヒトの手で作られたただのハリボテで、尾びれは彼らを死へ導く欺瞞の針。

ともすればそれは本物の毒牙よりも毒牙らしい。

ウシガエルはちょっと悩んだ挙句、(その間は彼に取って何か意味があったのだろうか)食いついた。ズシリと感じる重み。

竿を通じてウシガエルが苦しみながら暴れまわるのが手に取るようにわかる。

私は思い切り竿を引き上げた。

 


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ウシガエルはルアーを外そうと器用に手を使うも、それが仇となった。

釣り針はウシガエルの口の中だけでなく手にもしっかりと食い込んでいた。

 

陸に上げられ、ウシガエルは逃げようともがいたが、あえなく私に押さえつけられた。

強引に口を開け、ルアーを引っこ抜いた。

手に絡まった針は手の肉をちぎって外した。

痛みで震え、鳴くウシガエル。

 

ウシガエルの足が私の手に収まった。

「おいで。さあ」

ウシガエルは最後の抵抗を試みて暴れるも、ガッチリと足を抑え込んだ。

「ほら、怖くない。怖くない」

ウシガエルは大人しくなり、もう抵抗しなかった。

「ほらね、怖くない」

アイスピックの先が誤ってウシガエルの皮膚に触れると、びくりと体がこわばるのを感じた。

「おびえていただけなんだよね」

私はそっと呟き、彼の全てが終わった。

 

刺し穿つ死棘の槍

われわれの持っている力は意志よりも大きい。だから事を不可能だときめこむのは、往々にして自分自身に対する言い逃れなのだ。

        ラ・ロシュフコー

順調かと思われたウシガエル釣りだが、2匹釣ったところで、さっぱりと釣れなくなった。

7月に入ってウシガエルの繁殖期が本格化したのだ。

いつもの交尾相手を探す長い声から、交尾中のくぐもった短い声が多く聞こえるようになった。

ウシガエルの交尾はお互いが水中に浮きながら体をからめあって行う。その気持ち悪い声も合間って、見るに耐えない異常な光景が広がる。

交尾中に試しに川岸まで近寄ってみても逃げるそぶりは全くみられず、ルアーを投げ込んでみても全く食いつこうとしなかった。

アナゴカゴ はウシガエルがカゴに入るのを待たなくてはいけなかったが、結局のところ釣りもウシガエルが食いつかなくては釣れないのである。

もっと能動的に、ウシガエルのコンディションに関係なくウシガエルを捕まえる方法が必要だ。

 

そんなことを考えるようになり、ふと少年時代の思い出が頭をよぎった。

私の実家はとある海沿いの街で、夏になるとよく魚を捕まえに海に潜ったものだった。それらはほとんどが食べられる魚ではなかったが、潜水で魚の近くまで近づいてモリを放つことが楽しかったのだ。

 

そう、モリだ。

ウシガエルの至近距離まで接近できるのならば、モリでウシガエルをつくことも可能なのではないだろうか。

射程距離内に入れば、ウシガエルのコンディションは関係ない。私がいかにウシガエルを突けるかという問題になる。


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妻に頼んでモリを購入してもらった。

川で試しに使ってみると、ギリギリウシガエルを射程範囲に捉えることができる長さを持ち、カエシも強力でなかなかに使いやすそうなモリであった。

一点欠点があるとすると、ゴムが使えないことである。通常、モリは手持ち部分についてゴムを引っ張り、その反動で対象を打ち抜く。このモリは長い間釣具屋で埃をかぶっていたのであろう、ゴムを伸ばしてみると一瞬でちぎれてしまった。

しかし、問題なかろう。私が極限までモリ打ちを極められれば、手投げでウシガエルの体を貫くのも可能であろう、と思えた。とりあえずやってみようということだ。

 

7月8日 夜の帳が下りる。昼間の熱気が嘘のように冷え込み、ウシガエルが鳴き始めた。私はモリを手に川を物色した。

ウシガエルに接近するまでに手順は釣りと同じだ。索敵し、接近し、攻撃する。サーチアンドデストロイ、見つけたら殲滅するのみだ。

ウシガエルを探していると、同じアパートの住民とすれ違った。「あ、こんばんは」とぎこちない挨拶を交わす。ヘッドライトをつけてモリを手に住宅街を徘徊している不審者が同じアパートに住んでいるのは心配であろう。相手の気持ちを慮るのは大切だ。

気を取り直して索敵を再開すると、いつもの縄張りに赤い眼が光るのが見えた。

 

息を殺し、気配を消す。

絶対に存在を気づかれてはいけない。

草を慎重に避けつつ真後ろのポジションを取る。

「その心臓 貰い受けるーーー」

我が手には槍 その先が捉えるは 川の悪魔

瞬間 赤い閃光が闇を切り裂く

ーーー『刺し穿つ死棘の槍ゲイ・ボルク

それは因果の逆転

ウシガエルに逃げるすべはなかった

 

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すでにウシガエルは致命傷を負っていた。

最初こそもがいたが、しばらくすると動かなくなった。

そのまま、いつものようにアイスピックで脊髄を破壊した。

妻がそっとアメイジンググレイスを流した。

「鎮魂歌に」と。

そう、彼らにだってこんなところで狩りの対象になるはずではなかったのだ。

無理やり日本に連れてこられ、外来種として駆除の対象になってしまった哀れな存在だ。

完全に息の根を止めて、彼の死を弔い、遺体を川に流した。

「ーーー元気でね、ウシガエル。縁があったらまた会いましょう」

 

 

エピローグ

To be, or not to be : that is the question.

        William Shakespeare

結局、今日までにウシガエルを8匹処分した。

6/1    アナゴカゴ 

6/3    アナゴカゴ 

6/16  アナゴカゴ 

6/23  アナゴカゴ 

6/26  釣り

6/30  釣り

7/5    アナゴカゴ 

7/8    モリ

 

私の睡眠環境はかなり改善されるようになり、いつの間にか耳栓をせずに眠れる夜を過ごせるようになっていた。

私の努力と行動は無駄ではなかったのだ。

ウシガエルの生態を調べ、対策を実行し、効果がなければ改善して試してみて、そのフィードバックを元に新たな対策を実行する。

それだけのことだ。

それをこれからも続けて行く。

俺たちの戦いはこれからだ。

 

ウシガエルだけではない。

仕事だって、トレードだって、人間関係だって、なんだってそうなのだ。

「ハードワークを維持してPDCAサイクルをきちんと回すことーーー」これを愚直に行うべきだ。

仕方がなかったとはいえ、尊いウシガエルの命を8匹も奪ってしまったことは、やはり残念な気持ちである。

 

調べれば調べるほどウシガエルも不憫である。

自室のPCで環境省のHPやWikipediaを改めて読む。

人間の都合で勝手に連れてこられて、いつの間にか憎まれる対象になってしまったウシガエル。

私がよりよい睡眠環境を求めるように、彼らもまたウシガエルとしての生を謳歌しようとしていただけなのだ。

やるせない気分になって自室を飛び出し、リビングへと出た。

そこには妻がいた。

 

「…なんて…なんてことだ、あんまりだ…みんなが寄ってたかって、ウシガエルを駆除対象に仕上げたんだ。外来生物にしちまったんだ 畜生!!」

「…Zorac、ああいうものを、まっすぐ見るな。ここはそういう場所で、それが一番だ。それしかないんだよ、Zorac」

「…俺が…」

「ウシガエルを養うか? 無理だ。あいつらは繁殖を止められないさ。
…誰かが、ほんの少し優しければウシガエル達は、故郷にいたままで、仲間を作って、幸せに暮らしただろう。
でも、そうはならなかった。
ならなかったんだよ、Zorac。
だから、この話はここでお終いなんだ