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電子辞書を没収した高校教員の事

子供の頃から弁が立って理屈っぽかったことに加えて、物怖じせずに言いたいことを何でも言う人間だった。そんな訳で学校の教員から親戚や両親まで周りの大人からは疎ましく思われていた。

特に学校の教員に対しては非常に生意気だった事もあり、小学校から高校まで、私と関わった教員のほとんどが嫌っていた。保護者面談に行くたびに教員から苦情を受けることになるため、両親はこのイベントを嫌っていた。「この子は頭はいいが、将来はろくな人間にならない」と言われるのが常だったようだ。

一度、「私は生徒に泥棒呼ばわりされたのは初めてですよ!おたくの子はどうなっているんですか」と言われたことがあるらしい。

高校時代の話だ。

 

私が通っていた高校はいわゆる「自称地方進学校」で、校則や大量のテストと宿題でひたすら管理され続ける場所だった。当然のことながら縛られるのが嫌いな私には全然合わない。入学して2週間くらいで辞めたいと感じ始めていたと記憶している。校則がほとんどなくて自由が担保されていて偏差値も高い地元のトップ校に行けばよかったのにもかかわらず、そんな高校に入学してしまった自分が悪いのだが、今ではなぜそんな進路選択をしたのかわからない。

 

高校一年生の時、電子辞書を購入した。

入学時に高校で紙の辞書を購入していたが、家と学校を重たい紙の辞書を持って往復することは授業で利用することを考えると億劫だったのだ。電子辞書であれば持ち運びが便利なので家でも学校でも利用できると考えたのは自然なことだった。

国語、漢字、英語のみならず、百科事典やことわざなどの様々な辞書が入っていて大変使いやすかった。わからない英単語を調べるとそれをブックマークして、単語帳のように後から暗記するために利用するのが好きだった。

 

電子辞書を利用し始めてしばらく経ったある日、英語の授業でのことだった。

英語の教員は隣のクラスの担任をしている20代後半のHという男だった。

しんと静まり返っていた英語の授業中、あれは精読をしていた時だったか、教科書の文書を訳していたところ、教室内を巡回していたHがふと私の机で足を止めた。

「お前、何をやってるんだ」

何をやっているんだと言われても、昼寝をしていた訳ではない。

Hは私の机にある電子辞書に目を向けると、素早くそれを奪って言った。

「電子辞書なんて使うんじゃない。ウチの高校では紙の辞書を使え」

そして私の電子辞書を手にしたまま教壇に戻った。

「これは俺が預かっておく。学校に不要なものを持って来るな」

何を言ってるんだこいつは、と思った。不要も何も辞書として使うから持ってきているのだ。

返してくださいと言うも結局認められず、その日、強奪された電子辞書は帰ってこなかった。

 

翌日、学年だよりが配られた。毎日教員が持ち回りで作成するA4ペラ1枚のものだ。そこに書かれていたのは電子辞書のネガキャンと紙の辞書の主観的優位性についてだった。確か、紙の辞書なら同じページの単語も目に入るからとか、指を動かすのは頭にいいからとか、そんな内容だ;私への当てつけなのは明らかだった。もっとも、そのプリントは手書きではなくワープロで作られたものだったが。

 

後日、担任とHを交えて話し合いをおこなった。。

主観的根拠による紙の辞書の優位性を永遠と説かれたが、そんなことは私にはどうでもいい。私は軽くて情報に素早くアクセスできる電子辞書のメリットの方が、紙の辞書のメリットよりも大きいと判断したまでのことだった。

そんなことを議論するつもりはなく、さっさと電子辞書を返して欲しかった私はHに向かってこう言った。

「そんなことよりも早く返してください。人のものを取るのは泥棒ですよ」

残念ながらHがその後どう反応したかは覚えていないが、結局その日も帰ってこなかった。

 

最終的に電子辞書が返却されたのは1ヶ月くらい経った後のことだったと思う。

勉強に支障が出始めたこともあり、忸怩たる思いで職員室に向かい、担任に頭を下げた。盗られた自分のものを返却させるためにこんなことをするのは納得がいかなかったが、学校なんてものはそんなものだし、実利を選ばざるを得ない。

 

その後しばらくは学校に電子辞書は持ち込まなかった。授業中は紙の辞書を使っていたが、書き込みや付箋を大量につける同級生達を尻目に適当にパラパラめくるだけだった。

これは教員の言うとおりにしていた訳ではなく、この一件で学校への嫌悪感が増し、学校で勉強しなくなったためである。授業中は内職や昼寝の時間に充てていた。そんなことで、教員からはますます嫌われるようになった。ただ、それによって学校のテストや宿題をやらなくても文句を言われることはなくなり、大学受験の勉強に専念できたという大きなメリットがあった。

 

しかしこれも1、2年のことだけであって、電子辞書がクラスに本格的に普及し始めた高校3年の頃にはほとんど全ての生徒が電子辞書を購入し、授業中にも平然と利用するようになっていた。

この数による大きな流れをHをはじめとした教員達は止める訳でもなく、いつしか学校で電子辞書を使うことはあたり前になっていた。

 

そして、現在。技術は進歩し、電子辞書にとどまらず、オンラインでの学習プログラムやGoogle翻訳を活用することができるようになった。

そんな時代にあっても、Hはいまだにボロボロの紙の辞書を使いながら生徒にも強要しているのだろうか。

 

新しい技術や製品が出た時に「今まで自分がそれをやってきて慣れていたから」と言う理由だけで頭ごなしに批判するHのような人間は多い。しかし、そうなっては人間おしまいだ。まずは試してから客観的な判断ができる、そんな人間であり続けたいと強く思うのだ。